どうも きのPです。生粋のn-bunaさん信者です。
前回の記事では「ヨルシカ楽曲ソート」を用いて全ヨルシカの曲(インスト除く)をランキング付し、そのうち「1位~20位」について個人の間奏を綴りました。
今回はその続き、「21位~40位」の曲について語っていこうと思います。ランキングの趣旨や注意事項については、前回の記事に記載しておりますのでそちらを参照ください。
今回もかなりの文量になりますので、自分の好きな曲のコメントだけ見るぐらいの気持ちでいただければと思いますし、割とフィーリングだけで書きなぐってる節があるので、細かい表現や用語の使い方については突っ込まないでいただけると幸いです。
- 21位 ヒッチコック
- 22位 神様のダンス
- 23位 負け犬にアンコールはいらない
- 24位 又三郎
- 25位 老人と海
- 26位 アルジャーノン
- 27位 夕凪、某、花惑い
- 28位 月光浴
- 29位 踊ろうぜ
- 30位 ただ君に晴れ
- 31位 準透明少年
- 32位 思想犯
- 33位 春ひさぎ
- 34位 嘘月
- 35位 心に穴が空いた
- 36位 ブレーメン
- 37位 だから僕は音楽を辞めた
- 38位 八月、某、月明かり
- 39位 盗作
- 40位 風を食む
21位 ヒッチコック
第21位は「ヒッチコック」です。
この曲を聴くと胸がざわめくのは何でなんでしょうか。このように問いかける口調が多用されているからなんでしょうか....?
歌詞がとにかく頭に引っかかる曲です。前述した問いかけ口調もそうですし、曲調は「言って。」同様のポップな雰囲気を纏っていながら、歌詞に「やりきれない悶々とした心情」が滲んでいます。
今回のsuisさんはまさに「心に穴がポッカリ空いた思春期」を宿して歌唱されているように感じるので、それも相まって胸を騒めかせるのかもしれません。
MVにも登場しているこの曲の問いかけ主ですが、大切な人を亡くしてしまった女の子であるとされています。もしかしたら「答え」なんて求めてない、ただやりきれないこの心情を吐露したい、楽になりたいという願望がこの曲の「説得力」につながってるのかもしれません。
「先生 人生相談です。この先どうなら楽ですか。そんなの誰も分かりはしないよなんて言われますか」
サビの歌詞ですが、メロディのハメ方が気持ち良いです。少し跳ねるようなリズムになっているので、日本語知らない人に聞かせたら普通にポップソングだと解釈してもおかしくないですね。
「幸せの文字が¥を含むのは何でなんでしょうか。一つ線を抜けば辛さになるのはわざとなんでしょうか。」
あと2番のこの歌詞が頭にこびりついて離れないです。文字にしないと分からない部分ですが、僕はカラオケでこれを歌った際に雷で撃たれたような衝撃に見舞われたのを今でも覚えています。「幸」の一文字をそんな風に捉えれるセンスが恐ろしいです。
先生、次は第22位です。
22位 神様のダンス
第22位は「神様のダンス」です。踊ろうぜ、ほら。
この曲は終始こちらを刃物で刺してきそうな声のsuisさんが、荒んだ歌詞を振りまいてくるというかなり攻撃力の高い曲です。(ド偏見)
イントロはだんだん音階を下ってくギターのチョーキングが印象的で、只者じゃないオーラを冒頭からすでに放っています。後ろのピアノが楽しそうなのが不気味です。
そしてAメロで急に音数が減ります。情緒不安定な感じを演出していますよね。「間」の使い方も、こんなパターンがあるのかと驚きです。
僕たち神様なんて知らん顔 何処までだって行ける。なあ心まで醜い僕らだ 世界は僕らのものだ
サビですが歌詞の当たりが非常に強いですね。今までの展開も含めてここが感情の頂点なのかなと思います。このハラハラするような危なっかしさがこの曲の持ち味であると私は考えています。
またラスサビ前の間奏は圧巻です。ヨルシカのピアノといえば有名なのは「だから僕は音楽を辞めた」かと思いますが、この「神様のダンス」の間奏ピアノも非常に印象的で、感情の起伏をそのまま乗せたような演奏をされています。
では第23位に参ります。
23位 負け犬にアンコールはいらない
第23位は「負け犬にアンコールはいらない」です。犬の遠吠えから始まる特徴的な曲ですね。
曲自体は疾走感あふれるロックという感じで、ほぼ終始全速力で駆け抜けます。ハイハット裏打ちリズムがカッコいいですね。
細かい部分だと2番に入る前のキメの連続と、ドラムスティックの2カウントがなんか可愛くて好きです。2サビ前のカウントダウンだったり、ちょっとお茶目が覗いているのがいいですね。suisさんの声も曲調に反してわりと可愛めです。
しかしこの曲、2番のサビが終わると唐突に音数がグンと減ります。どうしたというのでしょうか。ここの間奏は唯一の休憩ポイント、いわゆるオアシスとして機能していて、体力およびMPを回復することができます。ここで鳴っているベースが非常に良い味出してますね。実際、このような分かりやすい抑揚ポイントが1カ所あると、他セクションとの対比でより静けさが際立ちますよね。「静」を際立たせる天才です。
その後はラスサビ、「吠え面かけよ偽善者」で転調しますが言うまでもなく最高です。聴けば全人類が血沸き肉躍るんじゃないでしょうか。ほんとに素晴らしい曲構成です。
24位に参りましょう
24位 又三郎
第24位は「又三郎」です。宮沢賢治の小説「風の又三郎」がモチーフですね。
こちらも疾走感あふれるロックナンバーではあるのですが、歌詞にも登場するようにまるで吹き荒れる「嵐」のような曲だと感じます。
どっどど どどうど どっどど どどうど
この原作で有名なワンフレーズも、曲の中にコーラスとして登場します。年末フェスでは観客の声でこの部分が歌唱されていて、一体感がすごかったですね。
suisさんのボーカルに注目すると、最初は静かに語りかけるようにスタートしますが、サビでは一転かなり強めのヘッドボイスで、まさに嵐が吹いているような歌い方をしています。ライブで聴くとこのサビ、ほんとに高らかにまっすぐ伸びてて、また数倍化けた曲になります。
風を待っていたんだ 絡み合った社会は ずいぶん窮屈すぎるから
吹けば青嵐 何もかも捨ててしまえ 今に僕らこのままじゃ 誰かも忘れてしまう
現代社会に生きて、溜まっていくストレスや理不尽、鬱々としたものを全て吹き飛ばしてくれという内なる叫びが歌詞に表れています。この振り切れてる感じのニュアンスもしっかりと歌唱に染みこませてる我らがsuisさんです。LOVEです。
サビ裏で鳴っているリードギターはスライドしながらハイフレットを移動していくフレーズで、まさにそんな社会のうねりのようなものを表現しているようです。
風吹けば 次は第25位です。
25位 老人と海
第25位は「老人と海」です。ヘミングウェイの小説「老人と海」がモチーフです。この辺りは実在の小説モチーフの曲が続いていて、順番的には「又三郎」の次に位置します。
穏やかな海辺の風景をイメージさせるゆったりとした曲調ですが、一方でサビでは「又三郎」と同様、しがらみから抜け出して自由になりたいという「開放感」を奏でる展開になってます。
あぁ まだ遠くへ まだ遠くへ 僕らは心だけになって
まだ遠くへ 海も超えてまだ向こうへ
語尾を伸ばす感じのメロディの繰り返しが、水平線の遥かまで広がる景色を呼び起こすようなそんなサビです。引用部分は実はラスサビですが、ここの「あぁ」はそんな広大な海を見て思わず出てしまった声、という感じがして非常に良いです。
曲の大半を占めているギターのミュート刻みは、この曲の象徴といっても過言ではなく、音色も相まって爽やかな海の情景を匂わせます。このギターが僕はめちゃくちゃ好きで、波の音のサンプリング音も合わさって高いリラクゼーション効果を発揮しています。都会の喧騒に疲れたら、この曲を聴きに来ましょう。
多種多様な「夏」を展開されているn-bunaさんですが、僕はこの曲もまたひとつの「夏曲」の枠組みに入るかなと思います。聴くと存在しない夏の海の思い出が、頭の中にフラッシュバックしそうになるので、今年海行けなくて残念だったな…という方にもおすすめかもしれません。
では第26位です。
26位 アルジャーノン
第26位は「アルジャーノン」です。ダニエル・キイスの小説「アルジャーノンに花束を」がモチーフとされています。シンプルな曲構成ながらも、美しく儚いピアノの旋律とsuisさんの歌唱が心に染み渡る曲です。ギターの音色の寄り添い方も優しく暖かいです。
この曲は各パートの話を以前に、とにかく歌詞が刺さる曲です。
貴方はゆっくりと変わっていく とても小さく 少しずつ膨らむパンを眺めるように
僕らはゆっくりと忘れていく とても小さく 少しずつ崩れる塔をながめるように
それぞれ1サビ、落ちサビの歌詞なのですが、「少しずつ変化していく」という様子を「膨らむパン」「崩れる塔」で表現されていて、ここの情感がとても切ないです。
この先の歌詞にも「ゆっくりと~」の表現は頻出しており、儚さを増幅させています。
この曲の歌詞、「アルジャーノンに花束を」の物語を知っていると余計に刺さります。
僕はこの作品を読んではないですが、それを日本版にしたドラマを学生時代に見ていました。それがとても印象的で考えさせる内容だったため、時を経てまた、この曲を通してその時の思いが蘇った次第です。
ただその文脈無しで聴いたとしても、「少しずつ変わっていく僕らだけど、それでも寄り添って生きていこう」という人間関係の模様を描いた曲として、恋人だったり友人、家族、各々の文脈で受け取れるものとなっています。
これも実はドラマの曲だったりしますね。
では、ゆっくりと次の順位にかわっていきます。
27位 夕凪、某、花惑い
第27位は「夕凪、某、花惑い」です。よく僕が「ドラムが好きな曲」として挙げることの多い曲です。
僕はドラマーではないので細かいことは分からないですし、ミーハーなのは承知ですが、それでもとにかくドラムがカッコいいなという印象です。
最初とAメロのハイハットのビート、Bメロのリムショット、そこから怒涛のドラムロールでサビにつなぐというこの一連の流れがとても好きなんですよね。歌詞が一拍喰って入ってるのもあって、サビ頭のインパクトがとてもつよく頭がはじけ飛びそうになります。
歌詞の中身はヨルシカ曲オールスターといった感じで、他楽曲を思わせるフレーズが各所に出てきます。「夜しか見えぬ幽霊」や「心に穴が空く」など分かりやすいものから、「ギターを鳴らして二小節」「この歌の歌詞は380字」などの匂わせオマージュも散りばめられてて、DECO*27さんの「愛言葉」シリーズを髣髴とします。
サビ頭が「さよなら」で始まってるのも、僕が好きなヨルシカ曲第3位のあの曲を意識してそうです。
音圧ゴリゴリサウンドで聴くほどさらに魔力が高まるので、ライブで毎回やって欲しい曲やななんて思ったりもします。
では第28位です。
28位 月光浴
第28位は「月光浴」です。映画「大雪海のカイナ」の主題歌ですね。
これはもう聴いた瞬間に度肝を抜かれるでしょう。多くは語りません。
歌詞にない部分が本体だと言わんばかりの壮大なフェイク、一級品過ぎてコメント付けるのも野暮なんじゃないかと思わされます。
足して、足して、溢れて。足して、足してる分だけ 過ぎて
文字に起こすとかなり短いのですが、それを感じさせないほど濃密で壮大なサビです。
n-bunaさんコーラスとの綺麗なハーモニーも魅力ですね。なんというかこのお二人の声、良い感じにバランスよく帯域カバーしてる感じがあって、それが曲の層をより厚くしているように思います。
楽器隊の入りを、サビ頭じゃなくて数拍後に持ってくるのももはや伝統芸能ですね。こういうバラードにおいてはその「遅れてやってくるヒーロー」があまりにも正義です。
バンドで合わせる難易度はかなり高いと思われますが、バチっと合わさった時の迫力はすさまじいですね。
まだこの曲「LIVEで浴びる」という実績を解除してないのが非常に恐ろしいです。絶対このランキングに影響を及ぼしそうな気がしてます。
足して29位に参りましょう。
29位 踊ろうぜ
第29位は「踊ろうぜ」です。この曲名からもにじみ出てますが、非常に悪ガキ感の強い曲です。
嗚呼、人間なんて辞めたいな。そうだろ、面白くもなんともないだろ。
嗚呼、自慢のギターを見せびらかした あの日の自分を潰してやりたいよ。
いきなり冒頭「嗚呼~」の悪ガキsuisさんがとても可愛いですね。このささくれ立った言葉遣いと歌い方で曲のスタイルを確立しております。世の中に対して、そして自分自身に対してさえも言いたいことをさらけ出している素直さがダイレクトに刺さります。
イントロのギターのリフもそれを反映してか荒々しく勢いがあり、曲の速度を1.1倍ぐらいにしてそうな疾走感があり、ほんとに踊ってしまいたくなるような謎の魔力も秘めています。曲名の説得力が高まるフレーズですよね。
そのままサビに持っていくのかと思いきや、その前のBメロセクションにオシャレな空間が展開されます。このポストロックみたいな部分が実はお気に入りです。歌詞自体は短いのですが、ワウをかませたギターなどで埋めながら「間」を繋いでおり、サビへの橋渡しを担っています。
今が苦しいならさ 言い訳はいいからさ あぁもう、踊ろうぜほら
最後のサビでは転調して、腕を強引につかまれて外へ引っ張り出されているようなそんな展開になります。これは惚れます。
今から少しだけ、このまま少しだけ踊ろうぜ
そして最後小節を長めに伸ばしてるときの、後ろのドラム回しがカッコいいです。最後に限らずですが、サビ終わりのギターフレーズから間奏のリフに繋がるところも良いですね。
第30位に行こうぜ。
30位 ただ君に晴れ
第30位は「ただ君に晴れ」です。ヨルシカ屈指の人気曲ですね。
Youtubeの公式再生数は2億回と最高を記録していますし、誰しも1度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
特筆すべきはやっぱりこの「キャッチ―さ」ですよね。乗りやすいリズムと軽快なメロディ、サビのクラップなど心を掴む要素が満載です。
非常にシンプルかつ王道のミドルテンポロックであるゆえに、難しいこと考えずに楽しめる曲でもあります。ギターも分かりやすくカッコよくて、Aメロ後ろでボーカルの隙間を縫うように、掛け合うように鳴っているフレーズが僕はとても好きです。
絶えず君のいこふ 記憶に夏野の石ひとつ
俯いたまま大人になって 追いつけないただ君に晴れ
しかし「言って。」もそうでしたが、こうゆう明るそうな曲にはだいたい裏があります。歌詞を見ていくと、「大人になっていく君とは対照的に、あの夏の日々が忘れられずに、追いつけない僕」というなんともセンチメンタルな心情が読み取れます。
正岡子規オマージュのフレーズが入っているのも、「ひとつ」の物寂しい響きがサビへの橋渡しとして機能していることを鑑みると、非常に妙が光っている部分です。
この手ぶらでは帰さないというn-bunaさんのスタイルには、ただただ天晴れです。
またこの曲はヨルシカLIVE 「前世」2021 においてアコースティックverが披露されているのですが、そちらはテンポも本家のポップさもそぎ落とされ、より歌詞の哀愁と切なさが強調された形となっており、また違った良さがあります。
では第31位です。
31位 準透明少年
第31位は「準透明少年」です。疾走感のあるロックチューンですが、タイトルにある「透明」の意味を考え出すと途端に切なさが滲みだし始める曲です。
「思春期の心の叫び」を赤裸々に文字に起こしたような文体で、suisさんの込める感情にもそれを意識したかのような意思の強さを感じます。
ギターが主役のサウンドですが、音色と曲の親和性が高くて、違和感なく流れるように聴けるのも特徴だと思います。個人的に好きなのは2番終わりの間奏で、ベースがまず下地のリフを弾く、そこにギターが後から乗ってきて形になっていくところがたまらなくカッコいいです。シンプルにロック曲として強いですよね。
愛の歌も世界平和も 目に見えないなら透明なんだ そんなものは無いのと同じだ
身体の何処かで 言葉が叫んでるんだ
そういうストレートなロックに乗っかっているこの「吐露するような歌詞」「内なる叫び」が我々の心に強く訴えてくるわけです。ラスサビの「見えない君の歌だけで」にはあらゆる感情が吹き溜まりのように積もっていて、印象に強く残る部分ですね。
こうゆう少年の叫びみたいな曲を、女性Voが歌うからこそ感じられる情緒ってありますよね。ええ、あります。
それでは第32位です。
32位 思想犯
第32位は「思想犯」です。破壊衝動、退廃的心情といった印象の強い曲です。尾崎放哉の俳句を引用して実際に「思想を盗む」=「盗作」をしているという、収録されているアルバムのテーマを強く反映している曲でもあります。
Aメロの声域は女声にしてはかなり低く、後ろのギターは広がりのあるアルペジオを鳴らしているのでのっけから不気味です。それがBメロに移るとどちらも輪郭のはっきりとした音に近づいていって、まるでこれから何かしでかしてやろうと決心したような感じです。
硝子を叩きつける音 何かの紙を破くこと さよならの後の夕陽が美しいって
君だって分かるだろう
そのBメロの歌詞がこれです。明らかに何かする気満々です。しかし、歌詞すべてに目を通していく内にその腹の内が徐々に明かされたりもしますので、なかなか奥深いです。
ダーク路線のロックですが、サビのメロディ及びハモリがとても綺麗で、故に際立つ部分でもありますね。手数の多いドラムフィルが入ってきたりと確実に攻撃性は高いのですが、「さよならの後の夕陽」のように、美しさがまたそこに内包されているのはn-buna美学なのかもしれません。
お気に入りポイントはラスサビ前の間奏で、急に今までなかった跳ねるリズムが入ってきてそれに呼応するベースのフレーズがカッコいいです。
第33位に参ります。
33位 春ひさぎ
第33位は「春ひさぎ」です。「思想犯」と同様のアルバム「盗作」からの曲ですね。
公式YouTubeの概要欄にあるように、「春をひさぐ(売る)=売春の隠語」を大衆社会における音楽の安売りになぞらえて描写した歌詞になっています。そのアプローチの仕方もそうですし、曲としてみたときに受ける印象もそれまでに無かったタイプだったのでインパクトが大きかったですね。
言勿れ 愛など忘れておくんなまし。苦しい事だって何でも教えておくれ
サビの歌詞ではこのように花魁言葉が使われたりして、一層「売女」要素が強調されています。大衆音楽を揶揄するといった文脈を、つい見失いそうになります。かなり聞き手の解釈に委ねられている部分が多いですね。
曲の雰囲気も独特で、ピアノ&ギターがリズミカルでありながらどこか怪しい旋律を奏でてます。ピアノの低音およびベースが音階を下っていくフレーズが多いのもまさに「堕ちていく」ということなのでしょうね。
サビはどこか掴みどころのなく、「雨とカプチーノ」のサビに似た浮遊感をも感じます。しかし要所でアコギがアクセントをいれたり、楽器全体でキメがあったりして締めるところはきっちり締めています。
あと意外とヨルシカでは珍しいのがギターソロに見られるワウフレーズ。怪しく妖艶な艶感を持つこの曲に華を添えています。n-bunaさんがギターを主軸に曲を作られている、というのはボカロ時代からヨルシカへと変遷していく中でも変わらないスタイルでしたが、そうじゃない曲が徐々に増える中でこういったギターの「変化球」も見られるようになり、より曲の個性が広がったように感じます。
次は第34位です。
34位 嘘月
第34位は「嘘月」です。「花に亡霊」「夜行」と合わせて、アニメ映画「泣きたい私は猫を被る」のタイアップ用に作られた曲です。
歌始まりからしっかり間奏をはさんでAメロに繋がっていく展開に、サビ前の「落ち」があったりと、その穏やかな曲調に反してかなり壮大な曲であると感じます。
サウンドとしてはピアノ主役で、ゆっくりめテンポの準バラードといった感じですが、風鈴の音や「夏が去った」というフレーズの陰に、n-bunaさんお得意の「夏の終わりの喪失感」が滲んでいます。
注目ポイントは歌詞の中で引用される尾崎放哉の詩です。
夜になった こんな良い月を一人で見てる
僕は愛を 底が抜けた柄杓で呑んでる 本当なんだ
味もしなくて 飲めば飲むほど喉が渇いて
もともとの詩が持っている荒涼感に加えて、「飲むほど喉が渇く」と追い打ちでナブ成分を振りかけているのが憎いです。相性ばっちりですよね。n-bunaさんはこの辺りの感性にシンパシーを感じて、尾崎放哉の詩に魅せられたのかもしれないですね。
君の目を覚えていない 君の口を描いていない
物一つさえ云わないまま 僕は君を待っていない
ラスサビで印象的なのはやはりこの「~ない」の繰り返しですが、曲名「嘘月(嘘つき)」の大回収ポイントでもあります。解釈についてはネット上でさまざまされていると思うので触りませんが、語尾の統一されたセクションはそれだけで強く印象に残ります。
そこから、どういう意味なんだろう?と思って歌詞全体を眺め始めたのなら、あなたはもう沼の入り口に足を踏み入れているのかもしれません。
次は第35位を待っています。
35位 心に穴が空いた
第35位は「心に穴が空いた」です。
力強いピアノの旋律がリードするロックナンバーで、濁流のように押し寄せてくる展開が非常にダイナミックな曲です。
忘れたいのだ 忘れたいのだ 忘れたい脳裏を埋め切った青空に
君を描き出すだけ。
こちらはBメロになるのですが、浮遊感⇒収束でばっちりキメに持ってくのがカッコいいですね。音的にもそうですが、歌詞も後半になるにつれ詰まっていて「脳裏を埋め切った」からのメロディ割りが好きです。二番ではつなぎ目にベースのスラップも入ってきて、めっちゃカッコいいです。
繕って 繕って 繕って 顔のない自分だけ
サビはまさに「畳みかける」という表現がピッタリで、文字の量もテンポの速さにも息が詰まりそうになります。去り際の「だけ」の2文字で後を引っ張るのもカッコ良い。剣道でいうところの「残心」ですね。
間奏は美しいギターの響きだけ、になります。全体的に勢いのある曲でありますゆえに、ここで落ちると綺麗に際立ちますね。ここからのCメロ⇒落ちサビはもう浮いたり沈んだりの波乱の展開で、心臓が弱い方ご注意です。
聴く者の心にもポッカリと穴を空けるような、そんな余韻感を残します。
次は第36位です。
36位 ブレーメン
第36位は「ブレーメン」です。あっはっはっは。
ゆったりしたテンポでありながら、さながら行進曲のように心地よく、ステップを踏むようなフレーズが下地にあるオシャレ曲です。
冒頭の軽快な歌い口から、さっそく楽し気な雰囲気を漂わせてますが「この夜の」のコード感で不安感を煽りに来ます。
愛の歌を歌ってんのさ あっはっはっは
精々楽していこうぜ 死ぬほどのことはこの世にないぜ
明日は何しようか 暇なら分かりあおうぜ
歌詞については上記に見られるようにかなり楽観的かつ、肩を組んで大声だしてきそうな地元の友人感があります。「あっはっはっは」はかなり印象に残りますよね。裏で鳴ってるグルービーなギターもクサくて最高です。
ただ、そこはやはりn-bunaさんということで
同じような歌詞だし三番は飛ばしていいよ
お前らみんな 僕のこと笑ってんのか なぁ....
などの遊び心や、目がガンギマリな要素もあります。「あっはっはっは」だったところをラスサビでは音抜きするという技は、まさに我々の心に穴を空けようとするがごとくですね。
こうしてみると結構な異色枠の曲だなと感じますが、n-bunaさん曰くこういうテイストの曲が作ってて楽しいそうなので、まだまだ引き出しはたくさんお持ちなんだろうなと思わされますね。
第37位に進んでいこうぜ
37位 だから僕は音楽を辞めた
第37位は「だから僕は音楽を辞めた」です。これもかなり知名度の高い曲ですね。
楽器は各パートかなりいろいろな動きをしていて、難易度高めの曲だと思いますが際立つのはやはりピアノ。明確なピアノソロのセクションがあったり、曲の抑揚をピアノの打鍵で表現したりと貢献度がすごいです。感情を吐き出すようなピアノロックとしてとても完成度が高く、多くの人の心を打つのは納得だなと感じています。
ライブで披露されることも多いこちらですが、suisさんの最後のロングトーンには毎回圧倒させられます。元の声の良さ+感情成分のバランスの良さが遺憾なく発揮されている部分で、音源の時点ですでにヤバいのに生がもっとヤバかったというパターンです。
この曲が出たぐらいから、suisさんの表現力にさらに磨きがかかっていったように思います。
その魂のロングトーンがあってから最後の最後で曲名回収っていう展開も、シンプルですけど胸を打ちますよね。
ねえ、将来何してるだろうね。音楽はしてないといいね。困らないでよ
間違ってないだろ 間違ってないよな 間違ってないよな
ここに挙げている二か所の歌詞は、文字だけだと伝わらないんですけど結構好きなポイントです。一個目の方は「....困らないでよ」と実は会話の行間が空いてて、二人のやりとりが易々と想像できます。こういった行間のニュアンスを音楽に乗せるのがほんとに上手いですよね。
二つ目の方は、これも頻出する「繰り返し」の構文です。ですがそこにsuisさんの感情が乗ることで完成します。特に三つ目の「間違ってないよな..?」は後ろの疑問符の表現がすごく繊細で、泣きそうになってるようにも聞こえる絶妙なバランスで発せられております。
次は第38位です。間違ってないよな...?
38位 八月、某、月明かり
第38位は「八月、某、月明かり」です。「夕凪、某、花惑い」と対を為すBPM220曲で、曲名の印象からも最初はどっちがどっちなのか覚えられないのも、ヨルシカファンが通る道ですね。
サウンド的には夕凪の方がメリハリがはっきりしてて、抑揚のコントロールによるサビのインパクトが上回ってたので順位が上になってました。しかし当然「八月」もその疾走感と、より強い「感情」のパワーを感じられるロックナンバーです。
最低だ 最低だ 僕の全部最低だ 君を形に残したかった 想い出になんてしてやるもんか
サビでは「最低だ」を繰り返しながら脚韻をそろえることでリズムを構築していて、歌詞を聞き手の脳に刷り込んできます。中身についても、ヨルシカ曲オールスターのようになっていた「夕凪」に比べると、こちらは明確にメッセージをもって当たり散らかしてる感じがあります。
人生27で死ねるなら ロックンロールは僕を救った。考えるのも辞めだ!
どうせ死ぬんだから
かなり擦れてます。「全部いらない」とあらゆるものを捨て去ったり、言葉の数で捲し立てたり、しかしその言動の裏には「寂しさ」や「やるせなさ」が見え隠れしてます。
これが疾走感あふれるロックにのせてやってくるので、聴いてるとほんとに心にチクチクと刺さりますね。
ギターリフもお手本のような高速フレーズで、おおよそBMP220の速さで涼しい顔して弾ける範疇ではないように思えます。n-bunaさんの手癖フレーズも随所に散りばめられてて、ギタリストでもある僕からするとやはり弾けるようになりたいなという憧れの曲です。
ラスサビの怒涛の言葉ラッシュはこの曲ならではのキャラクター性があり、ドラムやピアノも盛大に盛り上げますので、ここも印象の強い箇所です。ここの歌詞を全て覚えているという方がいらっしゃいましたら是非僕から何らかの賞を贈呈させてください。
続いて第39位です。
39位 盗作
第39位は「盗作」です。「音楽を盗んだ」1人の男の人生や生き様をモノローグ的に綴っている曲です。まるで演劇における独白のように感情豊かに、かつダイナミックに歌い上げるsuisさんが印象的な曲で、楽器隊もそれぞれが感情の波に同調するようなサウンドを演出しています。
ピアノに注目して聴いてみると、なんか聴いたことあるクラシック曲が聴こえてきたりとちゃんと「盗作」してるのもすごいところですね。ちなみに自分は自力ではそのことに気づけませんでした。
例えば1サビ後の間奏では、ピアノが「展覧会の絵」の冒頭フレーズを弾いてます。ただ、同時にギターが超エモいギターソロを弾いたりもしてて、まずそっちに気を取られます。それゆえ展覧会のフレーズにはなかなか気づけませんでした。ここのギターは音の歪み加減も、ヨルシカの中ではかなり攻めてて良いですね。
そうだ 何一つもなくなって 地位も愛も全部なくなって
何もかも失った後に見える夜は本当に綺麗だろうから
本当に 本当に綺麗だろうから 僕は盗んだ
ここはCメロに該当する箇所ですが、ここのsuisさんの吹っ切れたような歌い方と、それに合わせてギターが高音を奏でる展開に鳥肌が立ちます。「本当に...」と繰り返し呟くところなんかは、感情の乗りがすさまじいです。
この曲を聴き終わった後の、まるで映画を一本見終わったかのような読了感が、この曲がいかに濃なのかを表していますね。
次は第40位です。
40位 風を食む
第40位は「風を食む」です。情景の描写の仕方がすごくリアル目線で、アコギの美しい旋律に合わせて、そんな文学的な歌詞が染みこんでくる曲です。ちなみに僕は「食む」の読み方をこの曲で知りました。
展開としてはかなり平坦な曲なのですが、歌詞の持つ音の響き、透明感のあるボーカル、ドンシャリベース、アタック感のあるアコギと、あらゆる美しいものを結集させた展覧会のような曲です。
特にベースが終始心地良いです。輪郭がハッキリくっきりとしていて、他を邪魔してないのにちゃんと目立っているという、最高の塩梅をしています。おそらく、ドラムが打ち込みであること、エレキギターが飛び道具的フレーズしか鳴らしてないことなど周りの要素も影響してるかもしれません。
ボーカルも、どちらかというとキュート寄りの声で個人的な癖に刺さってきます。途中のハミングとかめちゃ良いですよね。こうやって書けば書くほどもっと上の順位でもいいだろ、と思えてくる曲です。
棚の心は十五円 一つだけ売れ残った
値引きのシールを貼って 閉店時間を待った
明日もきっと天気で 此処にも客が並んで
二割引きの心は 誰かが買うんだろうか
サビの歌詞の響きが綺麗なのももちろん注目ポイントなのですが、他にもこのAメロの歌詞のように何気ない風景の中に心情を練り込ませるというの、作詞の技が光るところです。
いやあ、いいですよねこういうの...と語彙力が盗まれてしまうのも納得です。
以上21位~40位でした。またしても長々とお付き合いいただきましてほんとうにありがとうございます。正直この辺りの順位になってくるとランキングをつけるといってもほんとに誤差の範囲で、聞いてるシーズンによっても変動してくるとは思います。
ただ「順位」はあくまでもおまけで、全部の曲を聴きこんでコメントしてみることで新たな魅力を発掘したり、よりそれぞれの曲を好きになることの方が本命かもしれません。読んでいただいた皆様も、これを機にヨルシカ楽曲を聞いてみる、もしくは聞き直してみると、新たな知見が得られるかもしれません。
それでは。41位~63位もまたゆっくり書いていこうと思います。